2012年01月08日

古川和男「原発安全革命」

古川和男の「原発安全革命」は福島原発事故をうけて旧版「原発革命」を改訂し出版したものである。私は以前に旧版「原発革命」を読んでいたのだが、その時は本当に実現可能な原発かどうか確信が持てなかったのでこのブログでは紹介しなかった。今回改訂版を読み直してみると、安全で実現性の高い方式だと思う。
古川和男が提案している原発は従来の固形燃料を液体燃料に代え、ウランをトリウムに代える「トリウム熔融塩炉」方式である。
われわれは原発とかトリウム熔融塩炉などと聞くと何やら難しいものだと思いがちだが、核分裂反応そのものはありふれており地中でも自然に起こっている現象だ。たとえば地熱の大部分は、半減期45億年のウラン232と141億年のトリウムの崩壊熱による。現在注目を浴びている地熱発電も、もともとの熱源は自然核分裂反応によるものである。われわれは常に自然核分裂反応等により、年間1〜2ミリシーベルトの放射線を浴びているのであり、それは地域によって数倍以上の強度差がある。地球の生物は、これだけの放射線と共存して生きているのであり、むしろ放射線が無くなれば、かえって複雑な生理現象を引き起こすだろう。もちろん原発事故によって人工的にばらまかれた放射性物質はできるだけ自然に近い値まで除染すべきだが、地球の他の地域にあるような放射線レベルであれば、特に健康に問題はないはずだ。
しかし今回の事故で、現在の軽水炉+固形燃料による原発方式では冷却し続けなければ臨界に達し、水素爆発を起こし放射性物質が大量にばらまかれることが明らかになった。事故が起きる確率は低いにしても、今後この原理による新規原発設置は難しいだろう。原発にNOを突きつけ、自然エネルギーへの代替を目指すのは究極的には正しいが、そのためには電力の安定供給が重要で、安価で高性能の蓄電技術が不可欠である。自然エネルギーは常に不安定であり、安定化させるにはバッテリーの価格と性能が重要となる。しかしバッテリーの性能向上はなかなか進まないのが現実だ。これは電気自動車が高額なのはバッテリーが高いことからも推測できるだろう。石油・石炭・ガスなどの化石燃料は埋蔵量や地球温暖化の面から限界が見えてきている。とすると当面は安全な原子力発電の技術開発に注力するしかないだろう。

古川和男の「原発安全革命」は新書本だが難しい専門書用語に満ちている。「トリウム熔融塩炉」などと聞くとなにやら難しそうに感じるが、実は原理は簡単だ。今回の事故は固形燃料を冷却できなくなり、高温となり水が分解され水素が発生し、水素爆発が起こり核物質が大気中にばらまかれた。すなわち問題の根幹は固形燃料にある。旧版「原発革命」では「トリウム熔融塩炉」は簡単な原理のため小型で低価格であることが強調されていたが、液体燃料であれば冷温停止も容易になる。安全面からも優れた原発方式だと思う。
古川和男は従来の軽水炉の危険性を指摘し、液体燃料とトリウムによる「トリウム熔融塩炉」の安全性を次のように述べている。
軽水炉においては、核燃料は被覆管に密封され、その周囲を水が循環する方式となったが、この方式では核燃料や被覆管は、核反応や放射線の影響で変質・破損・熔融して、事故原因となることが多い。また、反応により発生するガスが被覆管内部に密封され、高圧となって、管の破損時に外部にガスが噴き出す危険を生む。さらに、水は放射線で分解され、爆発の危険性のある水素を発生する。高温高圧となる水による材料の腐蝕も難問である。こうしたもろもろの不都合を抑えこむために、炉の構造は各種の安全装置やモニター機器類を装着して複雑となり、それだけ保守・点検が大変になる。悪循環である。そこに貫かれているのは「合理性をもった技術の原理」ではなく、「多重防護という無理筋対応」である(こうした不都合が極限となって重なったのが福島の事故であったのは、もうお分かりだろう)。
「化学プラント」は液体が正道なのである。核燃料が液体であれば、今述べた技術的難点のほとんどは解決できる。そして決定的に安全性が向上する。炉の構造もシンプルなものとなり、保守・点検が容易になるだけでなく、ロボットなどを利用した遠隔管理や修理作業も実現でき、作業上の被曝も最小限に避けられる。
仮に東日本大震災クラスの大地震と大津波が襲ったとしても、本書で提案しているトリウム熔融塩炉であれば、充分に対処できる(熔融塩という言葉を初めて耳にする方も多かろう。本文では詳しく説明しているが、ここでは熔融塩とは固体の塩が融けて液体となったもの、塩とは我々がよく知っている食塩の仲間、といった程度に受け止めておいていただきたい)。
この炉では、核分裂連鎖反応を止めるのは容易なので(反応のコントロールが容易なのが液体燃料の大きな利点のひとつである)、通常の緊急時は、すぐに反応を止め、そのまま炉内で核燃料(正確にいうと核燃料を溶かし込んだ熔融塩)を安全に冷却することができる。大地震・大津波などの非常時には、核燃料を炉の下部から地下の冷却水プール内のタンクに落とす。そうすると、連鎖反応は自然にストヅプする。炉で連鎖反応が起こるのは、そこに中性子を減速させる黒鉛があるからで、核燃料が冷却水プールに落ちれば、燃料のまわりに黒鉛がなくなり、したがって中性子も減速されず、臨界が起こらないのである(難しい話とお感じの方もおられるかもしれないが、本文中で、臨界とは何か、中性子とは何か、減速とは何かを、極力分かりやすく解説しているので、そこを参照していただきたい)。
核燃料熔融塩は、連鎖反応が終わったあとも崩壊熱を出すが(ご存知のように、この崩壊熱で福島原発は大変な辛苦を味わっているのであるが)、地下に落ち、冷却水(ホウ酸水)で急速に冷やされると安定なガラス固化体になり、後は自然に冷めてゆく。「崩壊熱の暴走」を心配する必要は原理的にないのである。
万一、核燃料の一部が、地下の冷却水プールではなく、なんらかの事故で炉から漏れ出たとしても、炉外に黒鉛がない以上再臨界になることはなく、空気で徐々に冷却され、ガラス固化体となるのみである。テロにあって炉が破壊されても同じことで、温れ出た核燃料はガラスのクズ状となり、それ以上飛散することはない。炉は高温格納室と炉格納建屋に守られており、放射性物質が漏れ出る危険性はほとんどない。核燃料は高圧ではなく常圧であり、高圧に伴う各種の危険性も回避できる。
熔融塩というのは、いわば地球のマグマみたいなものと思っていただければよい(ただし本書で取り上げた熔融塩は無色透明だが)。あるいは前述したように、(科学的振る舞いはかなり違うが)類似のものとして、「熱で溶け液状になった食塩」を思い浮かべていただいてもよい。とても安定した液体で、放射線を浴びても変質したり破損したりせず、今述べたように冷めるとガラス状に固まり、遠く飛散して環境を汚染したりはしない。このガラスは、空気にも水にも反応しない。
この熔融塩に核燃料(本書で解説するトリウム)を溶かし込んで使うのである。
核反応により発生する放射性ガスは、常時除去されていて、常に炉の中に微量しか存在していないので、漏れ出す心配をすることはない。また、今述べたように核燃料塩は水に溶けないので、燃料塩中の放射性物質が、水に溶けて外部に流出する「汚染水流出」の危険もまずない。
福島原発では大津波による「非常電源全喪失」が「崩壊熱の暴走」という大惨事を引き起こしたのであるが、この炉では万一「非常電源全喪失」が起こっても、そんな心配はいらない。炉の下部の緊急バルブ(落下弁)が自動的に開き、燃料塩をすべて前述した地下の冷却水プール内のタンクに落とし、ガラス固化させる仕組みになっているからである。緊急バルブは、運転時は冷却して凍らせているが、冷却をやめると融けて開くので、電気は不要である。
このように、「核分裂連鎖反応を止める」「核燃料の崩壊熱を冷ます」「放射性物質を閉じ込める」というすべての面で、原理的にきわめて安全なのである。
安全面の話を別の方角からすると、燃料をトリウムとする点にある。
すでに広く知られているように、ウラン235の核分裂により、プルトニウムが生まれる。核爆弾の材料となるきわめて危険な放射性物質だが、現状では世界中がその処分に困っている。原発が稼働すればするだけ、プルトニウムの山ができる。
トリウムを燃料とすれぽ、プルトニウムはほとんど生まれない。それどころか、本書で提案する「トリウム熔融塩炉」でなら、プルトニウムも炉内で有効に燃やせる。プルトニウムの消滅に一役買えるのである。
トリウムは自然界に存在する物質の中でウランに次いで重いもので、中性子を吸収することで核分裂性のウラン233となる。この生成されたウラン233を「火種」にして、連鎖反応を引き起こさせるわけである。
幸いなことに、トリウムは世界中にある。埋蔵量も充分だ。ウランのように偏在していると、寡占国による政治支配を生むが、トリウムにはそんな心配はない。

この原発方式は非常にシンプルである、大がかりな設備がいらない。構造が簡単で保守点検の手間がいらず安価にできて安全性が高い。現在の原子力発電は核兵器のためにウランからプロトニウムを作る過程で生まれた熱を平和利用したものである。だからイランでもウラン濃縮が核兵器開発目的ではないかと疑われる。「トリウム熔融塩炉」による原子力発電ならばどの国が運用しようが核兵器への転用は避けられる。われわれはそろそろ核兵器開発から始まった原子力利用のドグマから脱却すべきだろう。危険なプルトニウムを生みだす原子力発電ではなく、より安全な「トリウム熔融塩炉」による原子力発電というアイデアには説得力がある。
実用化のためには耐久性や燃料問題などさまざまな検討が必要になるのだろうが、安全な原発の有力候補の一つだろう。通常の火力発電のように全国の都道府県に設置できるような安全な原子力発電になることを期待したい。
なお残念なことに古川和男氏は2011年12月14日、逝去されたようだ。

アマゾンのカスタマーレビューに多くのレビューが寄せられている。さまざまな視点から意見が寄せられており、レビューを読むだけでも参考になる。下記表紙画像をクリックしカスタマーレビューを一読することをお勧めする。

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posted by nobuoji at 18:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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